兄貴の不器用なボール
今週のお題「投げたいもの・打ちたいもの」
年子の兄貴とは,兄貴が中学に上がってから仲が悪くなった。
理由と言った理由はないが,自然的に仲が悪くなった。
もともと公共の場では口数が少なかった兄貴は学校の子達に煙たがられており,校内という閉鎖された空間では理解者はあのクソ教師共も含めていなかった。
そのストレスの矛先が僕ら家族に向いていたんだと思う。
当時は「八つ当たりすんなよ」などとこちとらカウンターを喰らわせていたことが今考えれば胸が痛む。
基本的に仲が悪いまま兄貴は高校3年,僕は高校2年になった。
受験期だった兄貴はよりピリピリしだした。
仲が悪いけど兄貴のことは好きだったので,勉強に身が入っていなかった兄貴の日常に色々首を突っ込んでいた。
「マジで勉強しよろ?」
「漫画ばっかり読まんとさー」
自分のペースを崩されたくない兄貴にとって僕は最大のストレッサーだったと思う。
そんなある日殴り合いの喧嘩をした。
理由はしょうもないもので,お互いのストレスが容器から溢れるタイミングが同じだっただけ。
ついに一線を超えてしまったと,殴り終えた2人はただ茫然と涙を流していた。
それから全く口を聞かなくなった。
兄貴より勉強しない受験期を過ごした僕もパッとしない大学に進学した。
それから一人暮らしを始めた僕は強烈なホームシックになった。
コロナ渦で授業はほぼ全面オンライン。
スーパーのレジのおばちゃんとしか話さない日々に打ちひしがれた。
毎晩「竈門炭治郎の歌」を聞いては自分を鼓舞しなんとかやっていた。
夏休みになり実家に帰省した。
兄貴とは1年ほどまともに口を聞いていなかった。
すると兄貴の方から「あの時はごめんよ」と。
「お互い慣れない一人暮らしに奮闘し,両親もかなり歳を取っているので,今後お互い頼れるのは俺らだけだから。唯一の理解者の正真正銘の兄弟だけは仲良くやっていかんと」
みたいなことを言ってた。
嬉しかった。
それからは帰省時には一緒にサイクリング行ったり,パワプロの通信対戦をしてボコらせてもらったり,お墓参りに行ったりぼちぼち仲良くやっている。
先日の冬休みの帰省時に,兄貴が野球に誘ってくれた。
20分ほど自転車を漕いで誰もいない山奥の広場で1.2時間ほど投げたり打ったりした。
兄貴が投げる不器用なボールを野球経験者の僕が見事に打ち返す。
負けじと兄貴もインハイを綺麗なライナーで引っ張る。
どうしてかわからんけどそれまでは「ただの兄貴」だったのが,「支えられて支えてやりたい兄貴」になった。
就活で色々忙しくなかなか兄貴は帰省できないけど,またお互いに落ち着いたらあの人目の少ない公園でもう一度あのボールを打ち返したいなんて思った。
たった1人の兄弟なんだから。
以上,「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へにて描かれていた妹•堕姫と兄・妓夫太郎の兄弟の絆に感動し殴り書きをした夜21時48分でした。
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